復刻版浮世絵の秘密
●浮世絵のできるまで
江戸時代当時の人々が手に取った物と同じ、摺りたての「復刻版浮世絵」ならではの色鮮やかさと風合い。どのように作られているか、江戸時代からの職人技を引き継ぐ、現代の名工の仕事をご紹介します。絵師の描いた版下絵から彫師が版木を彫り、摺師がその版木を使って和紙に色を摺り重ねて完成させる浮世絵木版画。浮世絵は、絵師・彫師・摺師の三者の職人と総合プロデューサーである版元との共同作業によって作られていました。
版元(総合プロデューサー)→絵師→彫師→摺師
●彫る
1.彫師の仕事
熟練の技術で版木を刻む「彫り」。絵師の描いた版下絵を見て、何枚の版木が必要か見極める作業からその仕事は始まります。「主版(おもはん)」といわれる版下絵を元にしたモノクロの版、表情豊かな彩りを表現する「色版」。ひとつの作品に使われる版木は八枚以上。版木は堅い山桜の古木で作られ、小刀や透鑿(すきのみ)などを巧みに使い分けて彫っていきます。特に髪の毛の一本一本までも緻密に表現する「毛割(けわり)」は、まさに神業。短くとも十年の修行が必要な彫の技術をご堪能ください。
※木版に原画を写す工程については、こちらのページをご覧ください。
2.緻密に動く小刀
版木の墨線の両側に切れ込みを入れる緻密な作業。小刀の先端は紙よりも薄い。彫りの技術を習得する前に、小刀を研ぐ技術を得るのに何年もかかったといわれています。
3.大胆に動く鑿
要らない部分を一気に削り取る「さらい」の作業に使う。さらう部分の幅を見て鑿を使い分けます。
4.彫師の指先となる大切な道具。
5.墨版(主版おもはん)
版下絵をもとに彫師が墨の版(主版)を彫ります。
6.色版
絵師の色さし(配色の指示入れ)にそって、色版を彫ります。
●摺る
1.摺師の仕事
彫師の仕上げた神業の版木に、色の息吹を吹き込む「摺り」。江戸時代と同じ天然顔料、そして人間国宝の紡ぎだす越前奉書和紙を使用。主版から画の中心となる墨線を摺り、複数の色版を一枚一枚寸分のずれもなく塗り重ねます。顔料の量や水分を調整し、微妙な摺り加減で表現する「ぼかし」、顔料を一切つけずに力強く摺り込み凹凸を出す「空摺(からずり)」など、さまざまな技法を使い、鮮やかな作品が仕上がります。現代の印刷技術にはない独特の風合いは、伝統木版画ならではの豊かさです。
※摺る工程については、こちらのページをご覧ください。
2.摺師の手となる刷毛
版木のうえに絵具をのせ、刷り上げる時に使う。大きさは数種類あり、絵具をつける部分によって使い分けます。絶妙な作風に仕上げる「ぼかし」の表現は、摺師の技術とともに刷毛の調整も大切なことです。
3.安定した色彩にする、とき棒
彫り上がった版木に絵具を運びます。
4.摺師の手により、絵師と彫師の思いを摺り上げる馬連
版木にのせた絵具をきめ細かく和紙に写し込む。馬連は、数十枚の和紙を貼り合わせて浅い皿状にした当皮(あてがわ)と、竹皮を細く裂いて螺旋状に編み上げた縄と、これらを包む竹皮で作られています。
5.人間国宝が漉いた和紙
彫師と摺師の技術を写し出す和紙は、人間国宝、岩野市兵衛氏が一枚一枚を手で漉いた越前生漉き奉書を使います。楮(こうぞ)100%で作られた和紙は、混ぜ物がなく、繰り返して版を重ねる過酷な使用に耐えうるしなやかさがあります。絵具の発色も良く、独特の柔らかさ、そして温かみのある風合いを生み出します。
6.摺の順序
最初に主版の輪郭線を摺り、次に色版を摺り重ねていきます。色版は、摺りの面積の小さい色、さらに薄い色から摺られていきます。
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まず輪郭線の部分を摺る
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舟の薄い肌色を摺る
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舟が浮かび上がって見える
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舟のねずみ色部分を重ねて摺るる
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舟に立体感が出る
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波しぶきの明るい藍色を摺る
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波に迫力が出る
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藍色を摺る
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さらに迫力が出る
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波の動きを出す濃い藍色を摺る
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波にうねりが出る
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空の部分に淡い紅色を摺る
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画面全体に奥行きが出る
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富士のまわりにねずみ色のぼかしを摺る
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より一層、富士に深みが出る
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濃いねずみ色を摺る
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くっきりと富士が浮かび上がる